東京地方裁判所 昭和39年(ワ)8926号 判決
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〔争点〕原告は昭和三三年四月二一日被告から本件建物を代表二二〇万円で買受ける旨の契約をして、右代金を完済し、所有権を取得したが、昭和三四年三月三一日これにつき売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経た。そして原告は、本訴で右仮登記の本登記手続を求めたが、判決は、かような実体的権利変動の過程態様と符合しない登記手続を求めることが許されるかについて、以下のとおり詳論して、これを肯定した。
〔判決理由〕よつて本件において、原告が被告に本登記手続を請求しうるかについて判断する。登記制度本来の趣旨、及び我が国の登記に公信力がなく、不動産の取引をする者は登記の記載が真実に合致するか否かを審査しなければならないが、登記が真実の権利関係の過程と態様を示さないと右の審査が甚しく困難になることからすれば、登記は真実の権利関係の過程と態様を示さなければならない。しかしながら、現在の実体上の権利を有する者が、それに合致しない登記を実体に符合させるために、実体上の権利の変動の過程、態様と異なる登記をなす請求をすることが如何なる場合にも許されないと解するのは、現行登記制度の実際の運用状況から見て適当でなく、そのような登記手続を認めた場合にどのような影響があるかを考慮して、個々具体的に決すべきであると考える。本件においては、被告は本来原告に対して所有権移転登記手続を為す義務を負つているものであり、実体に即した登記を為す場合と比較して登記権利者と登記義務者が異ならない。従つて、中間省略登記のように、実体から遊離したために不動産を取引する者の調査を著しく困難にすることはない。本件仮登記後に抵当権設定登記又は所有権移転の本登記等を為した第三者が存するときは、本件本登記手続を許すことが不当にその第三者を害するように考えられるが、しかし、第三者は、仮登記の記載によつて将来自己の登記がくつがえされることがあるのを予測しえたに拘らずそれを覚悟で登記したのであり、仮登記当時既に所有権を取得していた原告に本登記手続を許したとしても不当に権利を害されるとはいえない。かつ本件仮登記は、被告が容易に移転登記手続に応じないので、原告がその権利保全のために司法書士に相談してその意見に従つてなしたもので全く原因なしになされたものではなく、すでに売買契約が成立しているのを手続上売買予約としたに過ぎないことが、原告本人尋問の結果によつて認められる。以上を総合し、本件においては、本件仮登記も有効であり、原告は被告に対し本登記手続を請求しうるものと解する。(石田哲一)